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これだけは押さえたい!交通事故と健康保険の関係

成田 翼 弁護士
弁護士法人 エース
代表弁護士成田 翼
所属弁護士会第一東京弁護士会

交通事故でも健康保険が使えるの?

交通事故の治療は自由診療だと聞いたことはありますか?私たちも,相談者や依頼者の方から,
「保険会社に健康保険を使ってほしいと言われたのだが,交通事故なのに健康保険は使えませんよね?」と聞かれることがよくあります。
しかし,結論からいうと,交通事故であろうが傷害事件であろうが,健康保険を使って治療することはできます。これは,健康保険法の定めを見ても明らかです。健康保険法57条1項は,次のように定めています。そのまま引用すると長いのでカッコ内を省略して引用します。

第57条 保険者は,給付事由が第3者の行為によって生じた場合において,保険給付を行ったときは,その給付の価額(中略)の限度において,保険給付を受ける権利を有する者(中略)が第3者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。

少し説明をすると,給付事由というのは怪我をしたこと,保険給付を行うとは健康保険を使って治療すること,と理解して良いので,この規定は,「第三者の行為で怪我をした場合に健康保険を使って治療したとき」のことを定めているということが分かります。このように,健康保険法自体が交通事故のように第三者から怪我をさせられたとき健康保険を使って治療することがあることを想定しているのです。実際,交通事故の場合でも第三者行為による傷病届という届出を出すことで健康保険を使うことができます。たまに,病院の方から,交通事故では健康保険は使えませんという案内がされることがありますが,明確に誤りです。
もし,病院からそのような説明をされた場合には,担当者の個人的な認識の誤りである可能性が高いです。また,病院側としては自由診療の方がもちろん経営的には助かりますから,健康保険を使わずに治療できるならそうしたいというのが本音だと思います。交通事故被害者としても,病院や医師に色々と協力してもらうこともありますし,診断書を作成する医師や病院との関係を良好に保つ方が良いので,特に健康保険を使う理由がない限りはあえて第三者行為による傷病届を出さなくても良いと思います。

交通事故で健康保険を使う意味とメリット

では,交通事故で健康保険を使う意味やメリットはどのようなものがあるのでしょうか?

交通事故治療、健康保険の利用のメリット

そもそも健康保険を使う場合と使わない場合でどのような効果があるのかというと,病院が取得できる治療費総額が変わるというのが一番分かりやすいです。ここで,健康保険を使って3割負担で治療したとしても,7割を健康保険が払ってくれるのだから病院側の取得する治療費総額は変わらないのではないかと思う人もいるかもしれません(鋭い指摘です。)。しかし,そうではないのです。

実は,自由診療というのは,単に10割をそのまま病院が取得できるというだけでなく,治療の単価(1点いくらという計算)も,1点10円という健康保険の算定方法に縛られず病院側が自由に設定することができるのです。なので,自由診療の場合には1点20円とか,病院によっては1点30円と設定していることもあります。これは,要するに,自由診療で診療すれば,健康保険を使った場合の患者負担+健康保険からの給付という金額より2倍とか3倍の報酬を取得できるということです。

そのため,交通事故では,健康保険を使うか使わないかで,医療機関の報酬が減るか増えるか,加害者(保険会社)の支出が減るか増えるかが大きく異なることになります。

しかし,実は,交通事故被害者にとっても健康保険を使うか使わないかで見過ごせない効果が出ることがあります。確かに,交通事故で必要となった治療費は加害者や加害者付保の保険会社が支払うものなので,被害者にとってはいくらかかろうが関係はないようにも思えます。実際,追突事故のように過失割合が絶対に0対100で揉めようがなく,かつ,加害者が対人無制限の任意保険に加入しているような場合には,被害者に健康保険を使うメリットはないといえるかもしれません。

とはいえ,当然ですが,保険会社も無制限にお金を持っているわけではないので,ある事故についてできる限り保険金支出を抑えたいという動機が働きえます。ですので,上記のようなケースであっても,治療費があまりに高額になると,そもそも治療費を継続して払い続けたくないとなりかねないですし,慰謝料その他の支払いも渋くなってしまうかもしれないという現実的な心配もあります(実際はそれほど心配しなくてもいいのですが,絶対にそのようなことがないとも言い切れないくらいの意味です。)。

他方で,被害者にも過失相殺されるべき落ち度があるケースでは,基本的には健康保険を使う方が被害者にも明確なメリットがあります。なぜなら,治療費も過失相殺の対象である上,保険会社は治療費を全額支払っておきながら,最後の最後,示談の場では「過失割合以上の治療費の支払いは支払い過ぎであったので慰謝料等の別の項目から差し引く」計算方法を主張してくるからです。たとえば,治療費が100万円かかり保険会社が全額支払ったとして,過失割合が20対80だった場合,20万円については被害者の負担になりますが,健康保険を使って治療費が50万円で済んでいれば,被害者の負担は10万円で済むということになるのです。

交通事故で健康保険を使うデメリット

 それでは,逆に,交通事故で健康保険を使うデメリットはないのかといえば,実際的な問題としてのデメリットはあります。

交通事故治療、健康保険の利用のデメリット

まず,手続負担です。通常,よほど被害者側の過失割合が高くない限り,賠償保険会社は医療機関から自由診療前提で請求される治療費の支払いに応じます。しかもその手続はほぼ医療機関と保険会社の間で済み,被害者としては,保険会社の担当者に通院予定の医療機関を伝えるだけで特に手続的な負担はありません。しかし,健康保険を使うとなると,第三者行為届というものを作成して提出しなければいけません。大した手間ではないのですが,やはり自由診療の場合と比べると,少し負担感はあります。

次に,精神的なものもあります。つまり,「どうして加害者(保険会社)の支出を減らしてやらないといけないのだ」と感じる被害者の方も中にはいるので,そのような方の場合は健康保険を使うことが相手の要求を飲んだように思えて抵抗があるかもしれません。

最後に,これが一番ありがちですが,医療機関側が健康保険を使うことに難色を示すことがあります。 これは,単純に交通事故では健康保険は使えないと思い込んでいる場合もあれば,使えることは認識しているものの自由診療以外では交通事故の診療をしたなくないとか,治療はしてもいいけど後遺障害診断書は書かないなど言われる場合もあります。前者の場合は,交通事故の場合でも健康保険は法律上使えることになっていると説明すればいいだけなのですが,後者の場合は被害者側弁護士としても丁寧に説明とお願いをするしかないのが辛いところです。ただ,幸いなことに,後者のような場合でも何とか最後には協力いただけることがほとんどです。

このように,健康保険を使うことの被害者側のデメリットというのは,法的な効果(つまり損害賠償の額として減ってしまうなどの効果)は全くないといっていいのですが,実際的なデメリットは少し気になる程度に存在しているといっていいでしょう。このように,法的な効果という意味でのデメリットはほとんどないのですが,実際には健康保険を使う場合は少なく,自由診療で治療をされているのがほとんどです。

交通事故で絶対に健康保険を使うべき場合とは?

 それでも交通事故で絶対に健康保険を使うべき場合があります。それは,①加害者が任意保険に加入してない場合,②被害者側の過失割合が大きい場合です。

①加害者が任意保険に加入していない場合

この場合,加害者側の資力に限りがあるため,全損害を現実的に賠償できる範囲が限られます。被害者側としては,治療費など手元に残らない支出にお金をかけるよりは,慰謝料などを十分に払ってもらう方が現実的な損害回復になるので,同じ治療内容なのであれば治療費の支出はできる限り抑えた方が良いのです。そして,実際,交通事故治療の内容は全て健康保険で対応できるものであることがほとんどです。なので,この場合は,被害者としては健康保険を使ってできる限り加害者の資力を医療機関ではなく自分の方に使うようにするべきです。

なお,加害者が自賠責保険にのみ入っているという場合も同じです。自賠責保険は,治療期間に関する賠償としては120万円が限度として設定されています。そのため,やはりこの120万円(+加害者の資力)のうち,治療費等についてはできる限り抑えた方が手元に残る賠償金を残しやすいからです。

② 被害者側の過失割合が大きい場合

この場合も,やはり手元に残す賠償金の最大化という観点から,健康保険を使った方が良いです。上でも説明していますが,これは,過失相殺が治療費にもかかって来るためです。

自由診療だと,10割負担である上に1点あたりの単価も2倍前後になることから,治療費負担は6〜7倍変わってくることになります。例えば,トータルで100,000点分の治療を受けた場合,健康保険を使った場合の治療費は30万円(100,000×10×0.3)ですが,自由診療の場合(1点20円)の治療費は200万円(100,000×20×1.0)となります。例えば,過失割合が4対6のような事故態様の場合,被害者が負担すべき治療費の額は前者だと12万円,後者だと80万円となり,かなり差が出ることが分かると思います。1対9だとすると,前者は3万円,後者は20万円となります。

このように,厳密に言えば,被害者に少しでも過失割合がある場合には治療費負担額に差が出てきますので,過失割合があるケースでは全て健康保険を使うべき,とも言えます。しかし,このような事実をそもそも知らない方がほとんどですし,知っていたとしても上記の実際的デメリットを考慮してそれほど大きな過失割合でなければあえて健康保険を使わないという選択をされる方もいるかもしれません。

しかし,3割とか4割以上の過失相殺が見込まれるケースでは,全体の賠償金額と治療費の金額にもよりますが,健康保険を使った方が実利が大きくなりますので,やはりこのような場合には健康保険を使うべきでしょう。

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